Brightpath通信

2020.6.25

 がん免疫療法における細胞医薬のもう一つのテーマ、他家(off-the-shelf)細胞療法への展開についてですが、今月行われた米国臨床腫瘍学会(ASCO)2020(今年はオンライン開催)で、Pfizerからのスピンアウトで、この領域で先行する米国Allogene社が非ホジキンリンパ腫を対象とする他家CD19 CAR-T細胞療法(キムリアは「自家」CD19 CAR-T細胞療法)の臨床試験成績を発表していました。先に発表された急性リンパ性白血病(ALL)に続いて、自家CAR-Tに遜色ない奏効率の高さが、血液がんにおいては本療法が次の世代に入ったことをうかがわせます。この後にも、先行承認され市場が拓かれた自家CD19 CAR-Tと遜色ない臨床成績を示し、他家製品で置き換えていこうと、たくさんの他家CD19 CAR-Tの開発がこれに続いています。

 当社が手掛けるもう一つの細胞医薬のパイプライン、iPS-NKT細胞療法は、二つの本邦「初」があります。一つは、がん免疫療法における他家(off-the-shelf型)細胞医薬であること。もう一つは、さらにそれをiPS細胞由来のマスターセル・バンクで実現していることです。

 自家CAR-T細胞療法とは、一人の患者さんから採血して得られたT細胞に、がん細胞を認識するCAR(キメラ抗原受容体)遺伝子を特定の遺伝子導入法で導入し(これがT細胞表面上に出てきて特定のがん抗原に結合するようになる)、培養で増やして、同じ患者さんに戻すものです。患者さんの病状によっては採血時に血中T細胞が機能を喪失していたり数が足りなかったりと、培養を経ても投与に必要なCAR-T細胞数を確保できないことがあります。毎回その患者さんにしか使えない特注品の注文生産になりますので、時間もかかりますし、製造コストもかかります。昨年の3月に承認されたキムリアは、原価計算方式に基づき1回投与で3,349万3,407円の薬価がつき、話題を呼びました。

 これらの課題を解決するために登場したのが他家CAR-T細胞療法です。健常人ドナーの血液から製造しますので、製造できないということが起こらず、必要と診断されたときにはできている状況で、1回のドナーの採血(大量に採るアフェレーシス)からだいたい100回投与分が製造されるので、製造原価も全く違ってきます。通常は他人のT細胞が入ると、「入った方(「グラフト」といいます)」が、「入られた方(「ホスト」といいます)」の非自己を排除する免疫システムによって消し去られてしまう(すなわち生理効果が無い)か、逆に、もともと同様に非自己を排除するメカニズムを備えた「入る方(グラフト)」が「入られた方(ホスト)」を攻撃し、輸注された人(ホスト)に重篤な副作用が起こる(GvHD=グラフトvs. ホスト・ディジーズ)ことがあります。他家CAR-T細胞療法は、そうならないよう、「入る方(グラフト)」に製造工程において遺伝子編集(前者の一般的な例がHLAのノックダウン、後者の例がTCRのノックダウン)がなされています。Allogene社の他家CD19 CAR-T細胞療法はこれに当たります。

 

 現在の他家細胞療法は、健常人ドナーの1回の採血から、例えば100投与分を製造し、無くなってきたらまたドナーの採血から始まって製造していきます。これに対して、健常人ドナーのT細胞(iPS-NKT細胞療法の場合はNKT細胞)から製造するのは同じですが、1回の採血で取ったT細胞をiPS細胞(人工多能性幹細胞:非常に多くの細胞に分化できる分化万能性と分裂増殖を経てもそれを維持できる自己複製能を持たせた細胞)へと初期化し、その段階でマスターセル・バンクを一旦作ってしまい、常にそこから製造するのがマスターセルバンク型他家細胞療法です。

 自家CAR-Tも、従来型の他家CAR-Tも、CARを導入して増やす元となるT細胞が患者本人のものか、第三者の健常人ドナーかの違いこそあれ、一口にT細胞と言ってもキラーT細胞もあればヘルパーT細胞もあり認識する抗原も違う様々なT細胞集団であることは、実は同じです。これらに特定のがん抗原に結合するCARを「導入」するということは、いわば「雑多な集団に同じ方向を向かせる」意味合いをもち、向いている方向は同じでも中味は違っていたりするという状態です。他家細胞療法でも、ドナーが違ったり、同じドナーでも採血の日が変わると、培養して製造される細胞の機能や性質も変わってくる可能性があるのです。

 これに対して、マスターセルバンク型の場合は、製造の出発点となるiPS細胞は単一クローンで、そこから分化誘導してできるT細胞(iPS-NKT細胞療法の場合はNKT細胞)は、均一なものの集団になります。いつでも同じ性質の細胞、よって薬効の予測も比較的立てやすい細胞治療薬が十分量確保できていて、患者さんを待たせることなく必要であれば何回でも投与できる治療法となります。もちろん、自家に比べると大きな製造コスト優位性をもちます。

 この次世代型の、マスターセルバンク型のがん免疫細胞治療薬は、米国ではFate Therapeutics社の、iPS細胞由来のエフェクター細胞を用いた(T細胞/NKT細胞ではなくNK細胞になりますが)細胞医薬の臨床試験が、非常に高い期待をもって進められています。

 本邦でも、iPS細胞由来のNKT細胞療法の臨床試験が、まもなく始まります。

 

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