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がん免疫療法の位置付け

私たちの体の中では、病原菌などの外来の異物や体内で発生したがん細胞を排除する生体防御機構が絶えず働いています。それが「免疫」です。がん細胞を排除する免疫の仕組みはがん免疫と呼ばれます。がん免疫の仕組みを利用して、体の中で無秩序に異常増殖するがんを排除するのが、「がん免疫療法」です。

「自己」でないものを排除するのが免疫ですが、がん細胞はもともと体の中にある「自己」の細胞なので、がんとは免疫の攻撃から逃避した「自己」の細胞によって形成されたものということになります。免疫は「自己」を攻撃しすぎないよう多様なブレーキの仕組みをもちますが、異常増殖する「自己」のがん細胞を、免疫機構が「非自己」とみなして排除できるようにすることが「がん免疫療法」と言えます。

なぜなら、がん細胞がそのブレーキの仕組みを言わば悪用して、免疫による攻撃から様々な手を使って逃避するからです。一旦免疫から逃避したがん細胞を、改めて免疫で排除することはできるのか? これは、すなわち「がん免疫療法は効くのか?」という問いであり、長きに渡って研究と論争がなされてきました。

今日のがん免疫療法の進展は目覚ましく、その答えは出ていると言えるでしょう。特に、がん免疫療法の一つである免疫チェックポイント阻害剤の臨床試験では、当初の想定を超える治療効果が示され、それは、標準治療が効かなくなった進行がんに対してもがん免疫療法で治癒に近い延命効果がもたらされることも不可能でないことを示唆するものでした。真に効果のあるがん免疫療法は進行がんに対しても有効であることが明らかになり、がん免疫療法の臨床の場での位置づけは一変しました。がん治療のパラダイムシフトをもたらしたという理由でScience誌は2013年度の”Breakthrough of the Year”にがん免疫療法(Cancer Immunotherapy)を選出し、今世界中の製薬企業と研究機関で開発が進められており、がん治療開発の方向性も変わりつつあります。

一方で、現時点では多くのがん種、ステージにおいて、奏効率は10-40%で、治療効果が得られる人はまだまだ限られています。今後は、より治療効果を引き出すための、誰にどのように投与すれば効果を期待できるのかという患者個人の病態・免疫状態へのフォーカスと、その人に合った、複合的な組み合わせを含む免疫療法の選択を可能にする、より進化したがん免疫療法の開発が期待されています。

なお、米国研究製薬工業協会(PhRMA)によると、2017年6月時点で開発中のがん免疫療法は合計248剤(内訳:免疫チェックポイント阻害剤45剤、CAR-Tを含む細胞医薬21剤、腫瘍崩壊ウイルス剤14剤、がんワクチン96剤)で、がん免疫療法は拡大基調にあり、2020年代の半ばにがん治療全体の半数を占め、その市場規模も10兆円にも達すると言われています。

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