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米国食品医薬品局(FDA)による発表について

米国食品医薬品局(FDA)が1128日に、CAR-T療法という非常に有効ながん治療薬による治療後に患者が新たながんを発症する "深刻なリスク "についての調査結果を発表しました。同局によると、承認済みのBCMAまたはCD19標的CAR-T細胞免疫療法を受けた患者の間で、CAR発現リンパ腫を含むT細胞悪性腫瘍の報告があったとのことです。すなわち、CAR-T細胞が患者さんの体内でがん化してしまったという報告になります。これはCAR-T細胞の元となる患者さん自身から採取した血液中のT細胞に、がん細胞の目印を認識するセンサーであるCAR(キメラ抗原受容体)を埋め込む際に、そのCAR遺伝子を細胞内ゲノムに運搬するウイルス・ベクターに関わるものです。このウイルス・ベクターに起因してがん化した可能性のある事例が集計され、今回の警鐘に至ったものです。報告された事例の数は極めて少数であるため、この有効性の高いがん治療薬のリスクとベネフィットを勘案したうえ注意喚起で終わる可能性もあります。 

信州大学で骨軟部肉腫および婦人科がんを対象に臨床試験が進められている当社のHER2標的CAR-Tは、CAR-T製造においてウイルス・ベクターを用いず、piggyback-transposonという代替法を使っています。CAR-T細胞を構成するT細胞が、強い持続性と抗腫瘍効果をもたらす幹細胞様メモリー型となるものを多く作ることができるというメリットがあるからですが、ウイルス・ベクターを使う必要がなくなることもメリットとして考慮された技術です。 

また、iPS細胞由来のNKT細胞を用いたiPS-NKT細胞およびそれにCAR遺伝子を導入するCAR-iPSNKT細胞は、患者さん自身の血液を使う自家ではなく、健常人ドナーの血液由来の細胞から製造する他家です。このような他家細胞は、患者さん自身の、自己or非自己を認識して非自己を排除する免疫システムによって、早晩排除されます。よって、自家細胞のように、患者さんの体内でずっと残ってがん化するという可能性は極めて考えにくいです。 

このように、今回FDAが鳴らしたウイルス・ベクターを用いるリスクについての警鐘は、当社が開発を手掛けるCAR-T細胞療法の技術に対してはあてはまらないと考えています。

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