NKT細胞と当社の取り組みについて
8月1日に日本炎症・再生医学会で、千葉大学の本橋教授が、2024年7月に完了が報告された再発・進行頭頸部癌患者を対象としたiPS-NKT細胞動注療法に関する第Ⅰ相試験について発表されます。
-発表内容について
試験結果については、既に報告されている通りで、高用量群で腫瘍の大きさの変化が評価可能であった5例のうち4例が「安定(SD, Stable Disease)」で、中には腫瘍縮小傾向を示唆する症例も見られ、初期的な安全性と臨床活性を確認することができています。
こちらはCAR遺伝子導入などの遺伝子改変を加えていない、iPST細胞から作製した「非」遺伝子改変(※)NKT細胞(BP2201)になります。
-注目を集めたMiNK社論文
非遺伝子改変NKT細胞と言えば、先日米国のMiNK社が発表した論文「Salvage therapy with allogeneic invariant natural killer cells in a heavily pre-treated germ cell tumor, 重度の前治療を受けた精巣がんに対するiNKT細胞を用いた救済療法」がOncogene誌7月10日号(https://www.nature.com/articles/s41388-025-03491-0)に掲載され、注目を集めました。
同社のNKT細胞はiPS細胞から作製したものではありませんが、ドナーNKT細胞を拡大培養した他家NKT細胞療法AGENT-797の臨床試験に参加した精巣がん患者さんの臨床試験期間を終えた後の経過の1症例ケーススタディとなります。
この患者さんは、投与後1年間は腫瘍は進行しないものの縮小もしない「安定(SD, Stable Disease)」だったのが、そのあとで、縮小し始める転移腫瘍病変もあり、2年が経過した時点で、臨床的・画像的・生化学的に完全寛解(CR)になっていました。
単回投与(AGENT-797とPD-1抗体を1回打つだけ)の臨床試験の通常の観察期間(約1年間)を終えたあと、さらに1年で計2年間という、あまり例のない長期間の観察がなされました。この患者さんは、化学療法剤、放射線療法、免疫チェックポイント抗体などで重度の前治療が為され、他に治療法が無くなっていた患者さんで、投与後すぐに腫瘍マーカーAFPが大幅に下がり、腫瘍が進行しなかったからかと思われます。
2023年、2024年のSITC学会で発表された約1年間の観察に基づく評価は「安定(SD, Stable Disease)」でした。それが驚くべきことに、治療効果の評価対象になっている複数の組織に転移した腫瘍の中には、投与後1年経って、そこから急速に縮小し始めるものもありました。
この他家NKT細胞が投与されたのは最初の1回だけで、1年後にこの他家NKT細胞が患者さん体内で増えていることも観察されませんでした。ということは、患者さんの腫瘍微小環境において、他家NKT細胞の介入によってこの患者さん自身がもっている抗腫瘍性キラーT細胞やNK細胞が活性化され、免疫抑制性のマクロファージも排除され、時間をかけて、免疫の抗腫瘍性が腫瘍の頑健性に劣る「Cold tumor」から、免疫の抗腫瘍性が腫瘍の頑健性に打ち勝つ「Hot tumor」に変わり、一定の閾値に達したところでシーソーの傾きが逆転し、腫瘍の急激な縮小を開始したと考えられます。
論文著者の医師たちも、このような固形がんにおいて発揮された、NKT細胞のもつ本源的な力について考察を進めています。
-当社の今後の取り組み
私たちのiPS細胞由来CAR-T細胞療法のストラテジーは、従来の自家CAR-T細胞のT細胞を、このようなNKT細胞に置き換えるというものです。
今回のケーススタディは「非遺伝子改変NKT細胞」が長期間の観察期間を経て完全寛解を示した例であり、当社のiPS細胞由来BCMA CAR-iNKT細胞(BP2202)の開発に示唆を与える内容です。
NKT細胞の本源的なパワーをきちんと評価できるような臨床試験プロトコルを組みたいと思っています。
※BP2202は、多発性骨髄腫に高発現するBCMA分子を認識するキメラ抗原受容体(BCMA CAR)を遺伝子導入した「遺伝子改変」NKT細胞になります。