iPS細胞から作製したCAR-NKT細胞に関する論文掲載のお知らせ
当社が研究を進める固形がん対象iPS細胞由来CAR-NKT細胞の免疫賦活化能に関して、理化学研究所 生命医科学研究センター及び千葉大学大学院 医学研究院の研究グループとの共著論文が、Journal for ImmunoTherapy of Cancerに掲載されました。
HER2 CAR-expressing iPSC-derived iNKT cells exhibit multifaceted immunomodulatory functions beyond direct tumor killing(iPS細胞から作製したHER2標的CAR-NKT細胞は、腫瘍の直接傷害にとどまらず多面的な免疫調節機能を発揮する)
Shioya K, Matsumura T, Urakami A, et al. JITC 2026; 14(10): e016268
がん細胞を直接免疫細胞で狙い撃ちする「CAR-T細胞療法」は固形がんでは未だに効きづらいことが課題となっています。その理由として、がん細胞ごとに攻撃するための目印(抗原)の出方にばらつきがあること、腫瘍が攻撃してくる免疫細胞を抑えこむ環境になっていること、そして患者ごとに細胞を作るための品質が一定しないことが挙げられます。
そこで私たちは、免疫細胞の一つであるNKT細胞を一度、人口多能性幹細胞=iPS細胞に戻し、遺伝子編集により乳がん等のがんに多く見られる目印である「HER2」を認識するセンサー(CAR: キメラ抗原受容体)を組み込み、再びNKT細胞に育てなおしました。NKT細胞はT細胞とは異なり、ドナーが異なっても宿主を攻撃しないため他家移植できる特徴があります。そのため、健常ドナー由来の細胞から均一なCARを導入した細胞を大量に製造し、規格の揃った、「off-the-shelf」の製剤として供給することができます。
この細胞はHER2を持つがん細胞を強く殺傷し、HER2をもつがんを移植したマウスでは生存期間の延長が見られました。さらに注目すべき点は直接殺傷するだけではないという点です。がん細胞を殺傷した後に周囲の樹状細胞(免疫の司令塔)を活性化し、HER2以外の目印をもつがん細胞を攻撃するT細胞を増やす様子が観察されました。司令塔役の樹状細胞を除くとこの効果が弱まったことがその証拠となります。また、仲間となる免疫細胞を呼び寄せる物質(ケモカイン)を出し、がん細胞を攻撃できるT細胞を呼び寄せることも明らかとなりました。さらにそれに加え、がん免疫を抑制、すなわちがんの味方をしてしまうM2型マクロファージという免疫細胞を排除しつつ、再教育してがんを攻撃できるM1型マクロファージに変換させられることも示されました。
これらの結果から、CARを搭載したiPS細胞由来のNKT細胞は、自らのみならず、周りの免疫細胞をがんの排除に動員することによって固形がんを克服する細胞医薬となることが期待されます。
論文著者に聞きました:
今回の研究で最も大きいと思う発見は?
松村:今までNKT細胞のアジュバント効果(生体の免疫反応を高める効果)はCD1d/TCR(自然に有するT細胞受容体)経路で説明されてきていましたが、今回CAR(特定の抗原を認識するよう人工的に搭載させたキメラ抗原受容体)のシグナル経路でもアジュバント効果が認められ、CARを単なる殺傷のためのトリガーだけでなく、免疫調節の人工スイッチとして使用できた点です。
塩谷:マウスモデルの薬効試験でヒトの血液細胞を移入したマウスでiPS細胞由来 HER2 CAR -NKT細胞が強い抗腫瘍効果を示したことです。理論的にはNKT細胞が樹状細胞等を介してT細胞を活性化させることは知られていましたが、実際に腫瘍に対して反応するT細胞が増殖し、強い抗腫瘍効果につながったことに驚きました。
今後の展望は?
松村:今回CARで狙っていない抗原に対して反応するT細胞の増殖を観察することができました。これが患者さんでも起きるのであれば、このCAR-NKT細胞を投与した間だけでなく、その後も患者さん自身の免疫細胞が、残ったがん細胞が復活してこないか見張る仕事を続けてくれる可能性があります。一度の治療で長く効く治療となりうる可能性がありそこに期待しています。
塩谷:現在、臨床試験が開始されているBCMAを標的とするCARを搭載したBP2202でも、本論文と同様な機能で多発性骨髄腫を排除し、一人でも多くの患者さんを救うことを期待しています。